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4月1日

「熊本」






昼休み、転出届けを出す為に市役所に行った。

会社から市役所まではゆっくり歩いても10分もかからない。

最後に熊本城をひと目見ておこうと思い、

少し遠回りして、

城のお堀沿いの遊歩道を歩く。

お堀に沿って植えられた桜が満開に咲き誇ってる。






















「きれかぁ・・・・」






















自分が無意識に熊本弁を発してる事に気が付き、



ちょっと照れて



そして少し












笑った。












正確に言えば、

3年前の今日ではない。

2年と361日前にあたる4月5日の13時。

僕は群馬県沼田市を出発した。

辞令書を持って。

熊本を目指して・・・






出発間際、当時の彼女と一緒に昼ご飯を食べた。

ロースカツ定食。

くだらねーって思うけど、

なぜかこんなことを克明に憶えてる。






そのお店。

沼田市の中で大好きだったお店。

当時僕はその店のロースカツをいたく気に入っていた。

なのに・・・

大好きだったメニューのはずなのに、

その日は全然ノドを通らなかった。






彼女の昼休みは13時まで。

いつの時代にも、どんな場面でも、

時間だけはすべての人に平等に流れる。

悲しいことにその日もいつもと同じように。

トンカツもキャベツもお皿の上に半分以上残したまま、

僕たちは店を後にした。

駐車場に並んだ2台の車。

この光景を目の当たりにして、

改めて離ればなれになる事を実感する。





















昨日までならどちらかの車、1台で来ていたのに・・・




















空はどんより曇り空。

ベタな表現だけど、僕たちの心みたい。

おまけに小雪が飛んでいた。

この土地では4月どころか、

GWまでは雪が降ることはさして珍しくない。

僕は身震いをしながら、一言告げた。







「じゃあなー。またなー。」







思い切り強がって言った。

彼女は泣いてた。







「ばーか。泣くなよ。死ぬわけじゃあるまいし。またすぐ逢えるって。」







こう言いながら

彼女の頭をぐしゃぐしゃとデタラメに撫でた。

僕だって本当は泣きたいんだ・・・

心の中で何度も思った。








「時間ないし・・・

 お前もそろそろ会社に戻らなきゃでしょ 行くなぁ。」









って言って手を振った。

本当はキスしたかったけど、

お店の駐車場には他のお客さんが沢山いたので、

我慢した。










フェリーに車を積み込んで

川崎港を19時に出航したのを憶えてる。

甲板に出て岸が遠くなっていくのをずーっと眺めていた。

街の明かりがだんだん小さくなっていき、

やがてまったく見えなくなった。

看板には沢山の他のお客さんがいた。




でも泣いた。


気にせず泣いた。




我慢出来なかった。

後から後からこみ上げくる嗚咽とナミダ。

止めることが出来なかった。

泣いた。

思いっきり声をあげて泣いた。







九州の方には申し訳ない。

でも、こう思ってた。




































「都落ちかぁ・・・」



































彼は船を使ってないかもだけど、

太宰府に左遷された菅原道真もやはり、

今の僕と同じような気持ちで福岡へ向かったんだろうか?

同じような気持ちで「飛び梅」の歌を詠んだのだろうか?

そんな事をぼんやり考えていた。






どれくらい泣いてただろう。

初春の海風は僕のカラダを

芯まで凍らせてしまっていた。

自分の寝台に戻って、

乗船前、青山に立ち寄って買った、

マイセンのカツサンドを取り出し、

ガタガタ震えながら、

もうすっかりぬるくなってしまった缶ビール2本と一緒に、

胃袋の中に流し込んだ。








当時の僕は本当にカツが好きだった(笑)
















夕飯を食べてしまうと、

その日は他に

もうナニもすることが残ってなかった。










携帯を取り出して

彼女にメールを打った。























大きい船に乗ってる。

さっき夕飯を食べたよ。

ご馳走だった。

この後、大広間で舞踏会があるんだって。

楽しみだよ。

今から行ってくるね。




















あの頃流行ってた映画。

タイタニック。

あの映画をまねて、

こんなふざけたメールを送った。


















嘘。
















思いっきり強がってただけだった。

泣いてたまるか・・・

泣いてたまるか・・・

そればっかり考えてた

本当は、今すぐにでも船から飛び降りて

群馬まで泳いで帰りたかった。





































群馬まで海があればだけど・・・






























約22時間かけて、

翌日の17時に船は宮崎港についた。

道路沿いに植えられてた大きなフェニックスの木が、

ものすごく揺れていた。

風がものすごく強かった。

でも、暖かかった。

不思議な匂いがしてた。






行ったことないけど、

東南アジアの国々って

こんな匂いがするのかなぁ・・・






また失礼な事を考えながら、

タバコの煙と一緒に、

窓の外の空気を思いっきり胸に吸い込んだ。









宮崎からは高速に乗って2時間かけて熊本市内に入る。

熊本での住居は九州支社の総務の方に

前もって探してもらっていて、

入居する予定の部屋のカギを事前に、

群馬に送ってもらっていた。







熊本での生活がはじまる2DKの部屋。

それまでワンルームという間取りしか住んだことなかった僕は、

九州に来て、最初の洗礼を受ける。

いわゆるファミリーユーズの、2DKとかって作りの部屋の天井には、

蛍光灯とか電球だけでなく、

そもそも照明セットってものが最初からついてなく、

自分でそのセットを買ってきて天井に設置しないと、

部屋に明かりはないと言うことを・・・







途中、道に迷ったので、

部屋に着いた時には20時を回っていた。

一般的な大型家電量販店なら閉店の時間である。

が、もし閉店時間の前に部屋に着いていたとしても、

熊本に着いたばかりの僕は、

照明セットが買えるお店がどこにあるかなんて、

分かるはずもなかった。








ただっぴろい2DKの部屋。

照明のない真っ暗な部屋。

自分の手さえ見えない。

途方にくれた。

あまりにも素敵すぎる歓迎だった。








暗闇に目がなれてきて、

ほんの少し周りが見え始めて来た頃には、

再び僕の目はぼやけていた。


















またナミダのせいで・・・





















ここまで書いて思った。































俺って本当に良く泣いてたなぁ(苦笑)

















くよくよしてても仕方ない。

ここにいても仕方ない。

仕事なんだから・・・

自分で選んだ仕事なんだから・・・

と自分に言い聞かせた。







とりあえず大酒を飲んで、

酔っぱらって寝ようと思った。







家の近所を歩いてみる。

幸いすぐに、居酒屋をほんの少し小さくした感じの

小料理屋っぽいお店を3つ見つけた。

どこに入ろうかものすごく悩んで、

3つ店を1時間くらいかけて行ったり来たりした。






結局、外から中が見渡せた1番小さなお店に入って、

カウンターに腰掛ける。

















「すいません。

 ビールを一杯いただけますか?」

















おどおどしながら、小さな声で一言だけ言って、

出されたおしぼりで指を一本ずつ丁寧にふいた。







マスターと従業員さん1人の小さなお店。

何杯目かのビールを飲み終えた後、

僕は重い口をはじめて開いた。












「今日・・・・群馬から仕事で来たんです。」と。












マスターも従業員さんも驚いた。

「遠かところから来なはったねー。」

みたいな事を言われた。

その頃にはカウンターにはもう何人かの常連さん達も座っていて、

一同、僕の話にびっくりした後、僕に熊本の事を色々教えてくれた。

会社までのバスの乗り方とか、

レンタルビデオの場所とか、

安いスーパーの場所とか、

そうそう。

照明セットが買える、

大型家電量販店の場所もね。











翌日の朝、九州支社に初めて赴任した。










「利根沼田建設事業所から来た、moon4since1999と申します。

 この度、九州支社経理課に配属を命じられ、

 本日赴任して参りました。一生懸命頑張ります。

 よろしくお願いいたします。」







みんなの前で辞令書を胸のところに持ってこう告げた。

まばらな拍手がおきた後に、課長が近づいてきてこう言った。










「今日の夜、予定ある? 今日、みんなで花見するから・・・」と









前々日出発する時、

群馬では雪が舞っていた。

なのに、こっちではもう花見。

日本って本当に広いんだなぁ・・・って思った。







花見が終わって、タクシーに乗った。

昨日行った、小さなお店の前で降りて、

その日もそこで飲んだ。







約1ヶ月ばかり、

ほとんど毎日、会社帰りにはその店に寄って、

お酒を飲んで夕飯を食べて帰るのが、僕の習慣だった。

そこしか知ってるお店がなかったから。

そこしか会社以外で僕と仲良くしてくれる人がいなかったから。

そこにはほんの少しだけ、











僕の居場所があるような気がしてたから。











熊本に来て、約1ヶ月が過ぎた頃、

生涯通して大切にしたいと思えるような素敵な方と出会い、

そして、友人になった。

彼と一緒にサッカーチームに入り、

週に1回ずつ一緒にボールを蹴るようになった。

当時彼は、格別に居心地がいい、小さな居酒屋を経営していた。







ゲンキンなもので、彼と知り合ってからは

だんだん、最初に行っていた店からは足が遠のき、

毎日彼の店で夕飯を食べてお酒を飲んで帰るという風に、

僕の生活は変わっていった。

気が付いた時、

熊本に着いた最初の日、

初めて入ったその店には、

まったく行かなくなっていた・・・







行かなくなった原因として、

大切な友人が出来たって事が一番の理由ではあったが、

これ以外の理由として、

最初に通っていた店の食べ物がどれも































くそまずかったってのもあったと思う。


























そして、


それ以上の大きな原因として、


その店で、飲み食いした翌日は、




































なぜか必ずをこわした。
















おそらく、

賞味期限とかそんなもの全然気にせずに

料理を作っていたんだと思う。

僕が熊本に来て最初の1ヶ月間通った店は、

そんなタイプのマスターがいる、

そんなタイプの店だった。
















保健所が入れば一発で・・・

















今日の夜が熊本最後の夜になる。

最後の夜・・・

どう過ごすか色々考えたけど、

やっぱり今晩だけは一人でいる事にした。

一人で色々な事を考えたかったから。








熊本で食べる最後の夕飯は

あそこしかないと思ってた。

そう。

1時間近くウロウロ迷って入ったお店。

熊本に来て、初めて入ったあのお店。

マスターと従業員さん1人の小さなあのお店。








店に入って、カウンターに腰掛けて、

あたりを見渡す。















すさんだなぁ・・・















小さく呟く。






















「おー。久しぶり!! 元気やった?」














びっくりするくらい大きな声で、

マスターが話しかけてきた。

憶えててくれたんだぁ・・・

ちょっと嬉しかった。

「明日で熊本と離れます。お世話になりました・・・」って

言おうかと思ったけど、

しめっぽくなるのはかなわないやぁーって思って、

黙ってた。








あの頃と同じように、

うん。

熊本に来た初めての夜と同じように、

少しドキドキしながら、マスターと馬鹿話をして、

ビール2杯と焼酎2杯飲んで、勘定を払って店を出た。

カウンターには数人の客が座っていたけど、

僕が知っている常連さん達の顔は1つもなかった。

店内の雰囲気は、壁のシミから店内に漂う空気にいたるありとあらゆるモノが、

3年前に僕が来たあの日のモノとは、すべてが変わってしまってる気がしたが、

おつりをくれる時のマスターの笑顔だけはあの頃とナニも変わってなかった。









































びっくりするくらいくそマズイ料理あの頃と同じままだった・・・


































明日、朝起きたらやっぱりまたをこわしてるのかしら?































唐突だけど、

この日記(keyword?)はここで終わる。

そして、この日記を書き終えて、アップロードをした時点で、

僕はパソコンの電源を切って、コードを外し、

箱にしまう。

文字通り、この日記が熊本で迎える最後の夜の、

最後の日記ってことになるのかなぁ?

P-inカード持ってるし、VAIOノートも、i-bookも持ってるから、

それを繋げばいくらでもネットは出来るし、掲示板にだって書き込みも出来る。

でもしばし・・・

僕はこの場から離れます。

京都について、パソコンを箱から取り出して

きちんと電話回線につないだら、またサイトの更新を始めます。

いつになるか確約は出来ませんが、

来週中のなるべく早い時期には復帰したいと思います。

それまでの間、


















さようならです。

















明日の午前中、引っ越し屋さんが

荷物をとりに来てくれます。

明日の午後、色々な手続きをして、

明日の夜、熊本を発ちます。







最後になりましたが、

熊本で出会った、沢山の方々、

サッカーの友人達、

バスケの友人達、

それ以外の友人達、

ネットを介して知り合った友人達、

ネットを介して、直接は逢ったことないけど仲良くしてくれた友人達、

みんなみんな、ありがとう。

優しくしてくれて、

仲良くしてくれて、

ありがとうです。






熊本で暮らした3年間。

この3年間の思い出は、

僕にとってかけがえのない大切なモノとして、

胸の中に大事にしまって、これからの人生を歩んで行きます。

3年間ありがとう。

本当ありがとう。




















毎日が幸せでした。



















昼休み、転出届けを出す為に市役所に行った。

会社から市役所まではゆっくり歩いても10分もかからない。

最後に熊本城をひと目見ておこうと思い、

少し遠回りして、

城のお堀沿いの遊歩道を歩く。

お堀に沿って植えられた桜が満開に咲き誇ってる。






















「きれかぁ・・・・」






















自分が無意識に熊本弁を発してる事に気が付き、



ちょっと照れて



そして少し































泣いた・・・



















                                        








追伸:転勤の話そのものが今日(エイプリルフール)と言う日の為に

    2ヶ月前から仕掛けた、特大のネタだったらいいのに・・・と思う。

    だけどすべては・・・







                                                  2004 4 1


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