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彼女





「ねぇ。しようぜ。」

彼女の部屋。

通路としか表現出来ないようなキッチンと8畳フローリングという造り。

不動産屋のチラシなら、こんな造りですら、

日当たり最高。間取り1K。

と宣伝されるのだろうか?

どこにでもあるようなモルタルの小さなアパート。

2階の角部屋。

安っぽい造りの出窓のカーテンレールには4日分の彼女の下着が干されてる。

「ここに座って」指さしたソファーに

僕は半ば強引に彼女の手を引っ張って一緒に座った。

いや、彼女をそのソファーに押し倒したと表現する方が正しいだろう。

ちゃちなソファー。

ディスカウントショップで、「激安!ソファー9,980円」と

赤の極太マッキーで書かれた紙が貼られ、

自分の値段の安さを呪いつつ、どこか居心地悪そうに店の中央あたりに、

展示されてるようなそんなソファーの上に彼女を押しつける。

「ねぇ。しようぜ。」

もう一度僕が言う。

「ナニを?」

「分かってるくせに。」

「私、そんな気ないからね。」

「そんな気ってどんな気だよ。」

「あなたがしようとしてるコトをする気。」

僕はうんざりしながら、彼女を抱きしめるチカラを少し強める。

そして、耳元でささやく。












「俺がしようとしてるコトって・・・なに?」












7月に入ったばかりだと言うのに

随分暑い1日だった。

彼女とは2時間前に知り合った。

いつものbar。

彼女はその店のカウンターの片隅で、

手持ちぶさたに視線を泳がせながら座っていた。

甘い香がするオレンジ色お酒を飲みながら。

落花生の殻をテーブルいっぱいに広げて。

「となりいい?」

僕は言った。

空席なんて沢山あったし、座る席なんてどこでも良かった。

でも明らかに彼女は誰かに誘われる事を待っていたし、その事を期待していた。

一目で分かった。

めんどくさそうに顔をあげる仕草が、芝居がかっていて少し鼻についた。

でも、僕は誰かと寝たかった。

ペニスを女性器の中に入れたかった。

だから、もう一度ほほえみながら言った。















「となりいいですか?」














難しいイミなんてなにもない。

彼女は誰かを待っていた。

僕はセックスがしたかった。

It's all

ただそれだけだ。

需要と供給のバランスがあっただけ。

「となりいいですか?」












酒を飲みながら会話をした。

いや。彼女が一方的に話していた。

仕事がイヤだ。上司がイヤだ。友達にキライなヤツがいる。

つまらない話。

聞いていて気持ちいいものじゃない。

たっぷり2時間彼女の話に相づちをうった頃、ちょうど店の閉店時間となった。

重いドアを2人で押して外に出る。

お城の城門のような仰々しいドアだ。

ドアの前でなんとなくキスをした。

「時間どう?どこか行こうか?」

「時間は平気だけど・・・」

「だけど?」

「もうお金が・・・」

思わず吹きだしてしまった。

律儀なオンナ。

僕のまわりにいるオンナなんて、

オトコを見ると財布に手足とペニスが生えて歩いてるとしか見ないような馬鹿オンナばかり。

だからこそ、彼女のその言葉は少しだけ新鮮だった。愛おしいとすら思った。

「金?いいよ。俺少し持ってるし。行こーぜ。」

「どこに行くの?」

「もう少し飲める店。」

「まだ飲みたいの?」

「悪い?」

「なら、うちおいでよ。歩いてすぐだから。うちで飲み直ししよう。」

「えっ?いいの?」

「いいよ。別にナニもしないでしょ?飲むだけでしょ?」

「オレ・・・そんな飢えてるように見える?」

店の傍のコンビニで6本セット500mlのビールを1つ買って、

手を繋いで彼女のアパートへ歩いた。

3歩歩いては立ち止まり、ジャンケンした。

負けた方が勝った方にキスをする。

そんなゲームを繰り返しながら、彼女のアパートへ向かう。

ちっとも彼女の家に到着しそうになかったけど、

酔っぱらった僕たちには、このゲームは楽しくて仕方なかった。

何度も笑いながらキスをした。

そして、キスするたびにペニスが固くなっていくのを感じていた。

体温の上昇。

コパトーンが香る。

夏を感じるこの香りが好きだ。

ふとした瞬間自分から感じるこの匂いが好きだ。

だから僕は夏の間中出かける時はこれを塗る。

ペニスが固くなる。

コパトーンが香る。

早く彼女の中に入れたかった。

早く。











「俺がしようとしてるコトって・・・なに?」

もう一度彼女の耳元でささやく。

「ナニもしないって言ったじゃん。」

僕の腕の中から逃れるよう、顔を出した彼女が言う。

彼女をもう一度力強く抱きしめながら、

「ホントにナニもしないつもりだった?めんどくさいカケヒキはいいよ。しようぜ。服脱いで。」

「イヤ」

「そう。ならいいや。俺帰るね。またね。」

「帰るの?」

「うん。だって俺、セックスしに来たの。しないんだったらいいや。」

「それ酷くない?」

「どっちがだよ。誘ったのはそっちだろ。こんな時間に部屋に連れてきておいて、その気ないのはねぇだろ。
 中学生じゃあるまいし。あほくさ。うん。帰るわ。ばいばい。」



立ち上がろうした僕の手を彼女が引っぱる。

「待って。」

「なに?」

「たしかに私も悪かったかもしれないけど、あなたのやり方ってサイテーね」

「何が?」

「なんて言うか、そう。クールじゃない。」

「かもしれない。でも俺はあなたとセックスしたいの。わかる?
 出来ないんだったらここにいても仕方ないし。うん。帰るわ。」

「だから、待ってって」

「ナニがだよ。」

「だから・・・いいよ・・・突然だったからびっくりしただけなの。ごめん。」

「ナニがいいんだよ。」

「だから、していいって事。」

「ナニを?」

「ひどい。」

「言わないんだったら、俺帰るわ。またね。」

再び立ち上がろうとする。

「あなたと寝てもいいって言ってるの!」

「寝る?もっとはっきり言えよ。寝るんだったら、俺自分の家で寝るよ。」

「だーからー。セックスしてもいい!あー恥ずかしいなぁ。
 なんでこんな事まで言わないといけないの?」

「ふーん」

「ふーんってナニ?私としたいんじゃないの?」

「したいよ。」

「なら、その『ふーん』ってナニよ?」

「べつにー。」

「ナニが別によ。」













「脱いでよ。」












「えっ?」

「洋服脱いで。そこに立って。見せてよ。裸。」

「電気消していい?」

「ダメ。なら帰る。」

「恥ずかしいよ。」

「恥ずかしくない。俺も脱ぐから。」












ゆっくり彼女は立ち上がる。

Tシャツに腕が伸びる。

「待って。下から脱いで。」

「下?」

「そう。ジーンズから脱いで。」

「なんで?」

「下から脱ぐの見たいから。」

「どうして?」

「イミなんてないさ。そうしたいだけ。」


溜息が漏れる。

ためらいながら、ジーンズのファスナーを下ろす彼女。

窮屈そうなジーンズ。よいしょって感じでズボンが下がる。

ズボンと同時にパンティーが少し下がり、慌ててそれを引き上げる。

完全にジーンズを脱いでしまうと、Tシャツの裾から彼女の下着が見え隠れする。

赤の下着。

僕はソファーの上に座ったまま、立ったままの彼女を抱き寄せる。

下着のレースの部分がちょうど僕の頬にあたる。

ほんの少し足を開かせて、彼女の部分に手を伸ばす。













「ねぇ。濡れてるよ・・・」














「濡れてない。」

「だって、下着がこんなになってるもん。」

わざと乱暴に彼女の部分をこねくりまわす。

彼女の陰部から漏れる液体と

ポリエステルの下着がこすれて、

淫靡な音が8畳の部屋に響く。

「いやっ」

彼女の声と反応がダイレクトに僕の脳と股間を刺激する。

聞こえないふりをして続ける。

人差し指の先は下着越しに蜜があふれているのを感じる。

僕は注意しながら、彼女の一番敏感な場所を探りあて、

その部分をゆくっりと時計まわりに円を描くように指でなぞる。

あふれ出す蜜が潤滑液のかわりとなって、

下着とクリトリスが気持よく滑ってこすれているのが分かる。

「すけべ。こんなに濡れてるじゃん。」

もう一度彼女に話しかける。

「濡れてない。」

「ふーん。」

円を描く速度を少し早める。

「嘘つき。」

「いやっ。」

吐息が荒くなるのを感じる。

僕のアタマに腕を廻し必死になってこらえてる彼女。

立っているのが辛いのだろう。

でも、やめない。

「ねぇ。濡れてるよ。」

「あっ・・・言わないで・・・」













「いつから俺としたかった?」













「知らない。」

「こんなになっちゃって・・・」

「知らない。」

「そう。ならやめよっと。」

突然彼女の股間から手を離す。

「ねぇ。意地悪しないで。」

立ちすくしてる彼女の顔を見上げる。

つまり彼女からは、僕を見下してるはずなのだが、

その目にはしっかりと懇願の色がうかがえる。

オンナのこの時の表情が僕は好きだ。

そして、この表情が一番かわいいと思う。

「私は淫らなオンナですって言ってみー。」

「いやっ。お願い。意地悪しないで。」

「ほら。言ってみー。お願いです。私のオマンコ触って下さいって言えよ。」

セックスにおける言葉遊び。

それにどれほどのイミがあるかなんて分からない。

しかし、少なくとも僕は自分の発する単語にひどく興奮していたし、

彼女もその言葉に興奮を覚えてるようにみえた。



「ほらっ」

「私は・・・淫らな・・・」

「えっ?ナニ?聞こえない。」

「私は・・・淫らな・・・」

「もっと大きい声で言わないと分からないよ。」

「私は・・・淫らなオンナですっ!」

「うん。知ってる。だから?」

「だからって?」

「だからなんだよ。だからどうして欲しいの?」

「そんなの言えない。」

「そんなのってナニ?」

「そんなのはそんなの!」



これ以上限界かな?

言葉遊びの一番大切なトコロは、相手の反応を見ること。

言葉遊びが独りよがりになると、

相手はあっという間にひいてしまう。白けてしまう。

その状況を的確につかまなければならない。

そして、今がその時期だった。これ以上の言葉遊びは危険。

そう判断した僕は、ふたたび彼女の股間に手を伸ばす。

彼女の右足だけをソファーの上にひきあげる。

これで、指を動かせる面積が格段と広がった。

今まで以上に自由に動く。

強弱を変えながら、下着越しにクリトリスの上に円を描く。







右に。 右に。


ゆっくり。 ゆっくり。



突然、廻す方向を変える。



左に。 左に。


つよく。 つよく。





動きが単調になると刺激に慣れてしまい、感度は下がる。

時折、クリトリスをつぶすようにその上をノックする。

例えるなら、ゲームのコントローラの早押しのように。

あえぎ声のトーンは上がる。

僕はその声を聞きながら、クリトリスを刺激しつづける。

右に。右に。

ゆっくり。ゆっくり。

左に。左に。

つよく。つよく。

トン トン。

トン トン。

ノックする。

一瞬カラダをのけぞらせたかと思うと、

「あっ!」

悲鳴とも嬌声ともつかぬ声をあげて、突然僕の上にくずれおちる彼女。

ちょうど僕に覆いかぶさるカタチでソファーの上に倒れ込む。

息が荒い。

髪の毛をなでる。












「イッたの?」











「うん・・・」

しばらく彼女を抱きしめて髪の毛をなでつづける。

「ねぇ。私にもさせて・・・」

彼女の指が僕の股間に伸びる。

「ダメ!」

「どうして?」

「まだダメ。」

理由なんてナニもなかった。ただもう少し彼女が乱れる姿が見たかった。

彼女を抱き起こして、すばやくTシャツを脱がせ、ブラジャーを取る。

綺麗な胸だ。

「もう一回立って」

「もう立てないよー。」

「立って。」

「ねぇ、私にもさせて・・・」

「分かった。させてあげるから立って。」

いやがる彼女をもう一度立たせる。

蛍光灯の灯りの下に赤のパンティー1枚だけ裸体が浮かびあがる。

そんなハダカをまじまじと見ながら、ゆっくり告げる。

「ねぇ、後ろむいて。」

「後ろ?」

「そう。そのまま後ろを向いて。」

不思議そうな顔をしながら、僕の目の前で反転する彼女。

ソファーに座る僕の目の前には、ちょうど彼女のお尻がせまる。

「そのまま、前のテーブルに手ついてくれる?」

「手?」

「そう。手。」

「こう?」

ゆっくりと彼女はテーブルに手をつく。

四つん這いでお尻だけが僕の顔の前に突き出した格好。

一気に彼女のパンティーを引き下ろす。

「いやっ。」

しゃがみこもうとする彼女のお尻を両手で支え、

より高くお尻の位置をあげる。

必死になって足を閉じようとする彼女。

少しチカラを込めてお尻を持ち上げ、足を開く。












「ねぇ丸見えだよ。すごいね。」












「いやっ。恥ずかしい。こんなことさせないで。」

「ダメ。もっと開いて見せてよ。」

「いや。」

その言葉に僕はますます彼女のお尻を引き上げ、両足を大きくひろげる。

「ふーん・・・すごいね。溢れてるって感じ。いつもこんななの?」

「知らない。」

「ふーん・・・ねぇ、奥まで見えてるよ。」

「・・・」

「お尻の穴。かわいいね。」

「知らない!」

たっぷり言葉で彼女を嬲った後、

彼女のクリトリスに舌を伸ばす。

唇で吸い取るようにクリトリスを包み込み、舌で舐めあげる。

強弱をつけながらクリトリスを吸いつつ、舌で転がす。

再び、彼女のあえぎ声が響きはじめる。

舌は這いずる。

クリトリスからヴァギナへ。

ヴァギナの中に舌をねじ込む。

「ひぃ」

悲鳴ともとれるような声をあげる彼女。

気にせずより深くを舌を沈める。

四つん這いになってついた両手の間から揺れる胸が見える。

右手を片方の乳房に伸ばし、とがった乳首を中指ではじく。

左手は彼女の左足を抱え込むカタチで、クリトリスを触る。

ヴァギナは舌で疑似ピストン。

あふれ出す蜜をなめつくす勢いでヴァギナの中を舌でつく。

奧へ。奧へ。

加速度的に彼女の吐息が早くなる。

断続的につづくあえぎ声。














「あっ・・・あっ・・・

 ねぇ・・・もうイっちゃうよぉ・・・」



















「ねぇ・・・ ああああああああああああああっーーー!」
















彼女がイク寸前、愛撫は中断。

素早く自分のズボンとパンツを脱ぎ捨てる。

そして、これ以上ないくらい勃起したペニスを

彼女の一番奥まで一気に突き刺す。

突き刺す。

突き刺す。

入った途端、彼女の背中がのけぞる。

ヴァギナが僕のペニスを締め上げる。

痙攣してるのが分かる。
















「ねぇ・・・またイっちゃった・・・

 入れ・・・た・・と・・たん・・・・はず・・・かしい・・・よ・・・」
















その言葉を聞くやいなや、再び激しいピストン運動を再開する。

はげしく。

はげしく。

床に彼女の蜜がしたたり落ちてるのが分かる。

はげしく突く。















「ねぇ。ちょっと待って・・・今イッ・・・タ・・ば・・かり・・・」
















聞こえない。

僕の腰と彼女の尻があたるたびに、

鞭で叩いたような音が部屋中に響く。


















「ねぇ・・・ね・・・ぇ。あ・・・っ・・・ダ・・・メ・・・

 あ・・っ・・・  ま・・・た・・・  あっ・・・・  あああああああああっ!」
















腰のグラインドをマックスにした瞬間、彼女は床に崩れ落ちた。

3度目のオーガズム。

息つく暇を与えない。

絨毯の上にうつぶせに倒れ込んだ彼女を仰向けにし、

今度は正面から彼女の中に入る。

前技と同じ。

どんなに激しい運動でも、その動きが単調なら、

やがて動きに慣れてしまい、感度はにぶる。

これからが本番。

僕は腰の動かし方を工夫しながら、何度も何度も彼女のヴァギナの中で

ペニスを擦りつける。












射精までの時間。

僕は比較的遅い方だと思う。

終わることない時間。

果てることないセックス。

さも永遠に続くかのように僕は腰を振り続ける。

永遠。

永遠って言葉はこの世には存在しない。

誰もそれを見たことがないからだ。

あるのは、永遠とも思える時間。

そう。

思えるだけなんだ。

なんだって、いつだって、終わりは来る。

そして、永遠とも思えた僕たちのセックスも、

当然終わりを迎えた。

「あっ!」と言う僕の言葉。

彼女のおなかに飛び散る精液と同時に。

僕の腕の中でぐったりしている彼女。

しばらく彼女の髪の毛を撫でていたが、そのうち眠りに落ちていった。












カラダの痛みと少し冷えを感じて目を覚ます。

午前4時過ぎ・・・

そのまま寝てしまったのだと寝ぼけたアタマで考える。

彼女のおなかの上には、数時間前に僕が出した精液がまだこびりついてる。

寝息をたてる彼女。

起こさないように注意しながら、彼女のアタマの下から、腕をぬく。

ベットの上から掛け布団を持ってきて彼女にかけ、

裸のまま、買ってきたビールを1本取り出し胃袋に流し込む。

ビールはすっかりぬるくなっていたが、渇いたノドにはこのうえもなく美味く感じた。

ひどくタバコが吸いたかった。

あたりを見渡してみたけど、どこにも灰皿らしきものはなかった。

ちっ。

軽く舌打ちして、もう一口、ビールを流し込む。

音を立てないように洋服を着る。

テーブルの横にメモ帳とペンが転がってるを見つけ、取り上げて中を見る。

























7/11  くりーにんぐ
























一行の走り書き。

この一行の走り書きの下に、






















「楽しかった。またね。」






















とだけ書き添えて、彼女の部屋を後にした。

たったこれだけのコトだ。

いつものコト。

彼女のコトなんて明日には忘れてしまう。

僕はそんな生活を繰り返していたから。

夜になる。

飲みに行く。

その晩寝るオンナを捜す。

オンナと寝る。

ホテルで寝る場合もあれば、そのオンナの部屋で寝る場合もあった。

極力自分の部屋は使わないように注意した。

あとあとめんどくさいことになりたくないからだ。

明け方が来る。

足を忍ばせて、彼女たちのもとから僕は逃げ出す。

おなかをすかせた泥棒猫のように。



時間が流れる。

1日が終わる。

また夜が来る。

違うオンナを求めて、飲みに出る。

そして、そこで出会ったオンナと寝る。

単調な生活。

リフレイン。

傷のついたレコードのようにその部分だけを延々と繰り返す。

流れゆく時間の中、僕だけはそこからは逃れるコトが出来ない運命のように。

同じ溝を繰り返しなぞるだけ。

メビウスの輪。

うん。

だから、誰一人として寝たオンナの事なんて覚えていなかった。

明日になればまた違うオンナ。

名前と顔が変わるだけ。

変わらぬ行為を繰り返すだけ。

そこに記憶なんて必要なかったから。

だから僕は誰一人として寝たオンナの名前すら言えなかった。

少なくとも彼女以外のオンナの事は・・・













僕が彼女と寝た日。

正確に言うと、僕が彼女の部屋から帰った数時間後、

彼女は自分の部屋で首をつって死んだ。

あの部屋のどこに首をつるような場所があったんだろうと不思議に思ったが、

彼女は首をつって死んだらしい。

らしい・・・












彼女と寝て10日が過ぎた頃だった、

barのマスターが僕に教えてくれた。

「この前来た子覚えてるか?」

「この前来た子?どの子?」

「そうだなぁ。10日くらい前だったかなぁ?」

「誰の事?」

「ほら、そこの端に座ってた子。お前となりに座って飲んでただろ。」

「そうだっけ?」

・・・記憶のよみがっていた。

彼女の事を思い出していた。

でもトボケていようと思った。

めんどくさい事になりそうな気がしたから。

「その子がどうしたの?」

「死んだんだよ。」

「人は誰だっていつか死ぬ。」

「確かに。でも、彼女はまだその『いつか』のような歳じゃない。」

「ふーん・・・」

喉の中がカラカラになっていくのを感じる。

思わず目の前のビールに手を伸ばす。

「なんで死んだの?」

「自殺・・・」

「自殺?」

「夕刊のスミの方に彼女の写真と名前が出てた。
 それと同時に警察が何人か来て、彼女の事を聞いていった。」

「ナニ聞かれたの?」

心臓の鼓動が早くなるのが自分でも分かる。

今にも口から心臓が飛び出しそうだ。

残りのビールを一気の流し込む。

「彼女の事を知ってるかと聞かれたから、名前だけは知ってると答えた。
 この店には良く来てたのかって言うから、2回来たとだけ言ってやった。」

「ふーん。でもさぁ、自殺なんでしょ?なんで警察がマスターのトコロ来るのさ?」

「そんなもんなんだよ。警察ってトコロは。」







マスターが警察の事を嫌ってるのは知っていた。

昔、警察にあらぬ疑いをかけられて、ヒドイ思いをしたらしい。

どんな疑いをかけられたの?って聞いても、

昔の話だよ・・・と目を伏せて決して教えてくれない。

ただ口を開けば、「警察は絶対信用するな・・・」

そう。

これが彼の口癖だった。

僕は新しいビールを注文して、もう一度マスターに聞いた。

「なんで、自殺しちゃったんだろう・・・」

「知らない。」

「遺書とかあったのかな?」

「遺書と呼べるものかどうか分からないけど、
 足下のメモ用紙にそれらしきモノが書いてあったって。」

「メモ用紙?」

クリーニングって書いてあったあのメモ用紙か?

僕は再び心臓が早く打ちはじめるのを感じた。

「あー、うん。メモ用紙。」

「なんて書いてあったか聞いたの?」


































「  世 の 中 な ん て ク ソ 食 ら え !

   み ん な み ん な 死 ん じ ま え ! 」

 


























胸の鼓動がますます加速していくのを感じる。

「ふむ。ステキな遺書だ。警察、他にナニか言ってなかった?」

「他に?・・・なんか言ってたかなぁ。
 途中でめんどくさくなって追い返してしまったからな・・・ なんか気になる?」

これ以上の深入りは危険だと感じた。

「別に・・・」

と口をにごして、新しいビールに口をつける。








僕が彼女を殺したわけではない。

だから、ナニも焦る必要はないんだ。

自分に言い聞かせる。

ビールを飲みながら何度も何度も自己弁護をはかる。

うん。焦ってなんていない。

ただ、この平穏な毎日がジジョウチョウシュウと言う、

舌を噛みそうなモノによって、かき乱されるのはあんまりいい気はしなかった。



彼女が死んだ後、しばらくの間、

警察が来るのではと怯えながら暮らす生活を余儀なくされたが、

幸い、僕の元に警察もジジョウチョウシュウも来ることはなかった。

もしかしたら、警察嫌いのマスターが、僕のコトを思って

警察が僕の事、あの日の事を聞いた時、

なんらかの偽証をしてくれたのかもしれない。

事実がどうだったのかは定かでないが、

警察もジジョウチョウシュウも来なかった。

このことは僕にとっての唯一の幸いであった。











世 の 中 な ん て ク ソ 食 ら え !

み ん な み ん な 死 ん じ ま え !











彼女は間違っていない。

ある一言をのぞけば。

間違っていない。

そうだよ。世の中なんてクソ食らえさ。

バカばっかり。

クソばかりさ。

でも、そんな世の中でだって、僕たちは生きていかなければならないんだ。

毎日、毎日クソを食らいながらも。

くだらない仕事をして、くだらない酒を飲んで、くだらないセックスをする。

あーそう。

クソばかりさ。

でも、それでもみんな必死になってクソ食いながら生きてる。

僕が最も尊敬しているある作家は、彼のその作中でこう語る。













「死は生の対極にあるのでなく、その一部ととして存在する。」と。













その通りだ。

生きてるということは、すでにその中に「死」というものを持っていて、

時間とともに、その死と言う部分は大きくなっていく。

時間なんて経過しなくても、それはある日突然やってきたりする。

それは対極になんてあるわけでなく、

「生きている」=「死」を持ち合わせながら生きていると言うことだろう。

だからこそ、1部であるからこそ、

故意に自分の中の死の部分を自分で増長させるなんてすべきでないし、

いわんや、誰かの中にある「死」の部分をふくらませる事なんてもってのほかなのだ。







み ん な み ん な 死 ん じ ま え !








生きてるって事は、死を持ち合わせてる。

死の恐怖に気づかないフリをして、

クソを食らいながら生きてるんだ。













誰 も 彼 も 死 ぬ べ き で は な い 。












自ずからそれを手に入れなくとも、

人はみな、平等に「死」だけは訪れるのだから。

自分の手でそれを早急に手に入れるなんて馬鹿げてる。

やがて来るその日までは、

こんなクソみたいな世の中に辟易しながらも、

何かを探していくべきなんだ。


















誰 も 彼 も 死 ぬ べ き で は な い



















ちょうど去年の今日、僕は彼女と寝た。

そしてそのまま彼女は死んだ。

こう考えると、僕は

彼女の人生で最後に話した人間であり。

最後にセックスした相手にあたるのだろう。



この1年、僕はあいかわらずの生活を送った。

夜が来る。誰か知らない女の子と寝る。

次の日の夜が来る。また違う誰かと寝る。

あたかもそれは、僕が背負わなければいけない業だと信じて。

あるいは、退屈な夜を過ごす為のテレビゲームのように。

そして、片っ端から寝た子の事を忘れていった。













彼女の事は忘れなかった。

忘れる事が出来なかったという方が適切だろう。

忘れるどころか、いまでもはっきり覚えてる。

彼女の部屋。

彼女の下着。

彼女の乳房。

彼女の性器。

したたり落ちた蜜。

のけぞった背中。

かすれる声。

寝息。

そして、

「7/11 くりーにんぐ」の文字










1年前の今日、彼女は死んだ。

今日も変わらない場所で僕は、変わらないクソを食いながら一日を終えた。

一日の終わりは、1年前と変わらずこのbarで酒を飲んでる。

1年前座った席と同じ、カウンターの奥から2番目の席で。

「悪いけど、混んできたから端につめてくれる?」

「マスター。ごめん。人が来るんだ。ここで待ち合わせしてるの。ここあけておいて・・・」

「じゃあ、人がもっと来て、誰も座れなくなったら、つめてくれる?」

「分かりました」とだけ僕は告げてビールを飲んだ。

どんなに飲んでも酔っぱらう気がしなかった。

時間の経過とともに、店は混雑してきたが、

幸い僕が、壁側の隣の席に移らないといけない状態ほどにはならなかった。

マスターは注文されたお酒を作るのに精一杯で

僕の事なんて、もう目にも入ってなかった。



今日この店に来て何時間たったんだろう。

隣の席。

彼女が座っていたあの席。

そのテーブルの上に僕は長い時間をかけて、

落花生の殻をまき散らした。

















落花生のカラ。




















主役を失った器。

タマシイが抜き取られたイレモノ。

自らの手でイレモノからタマシイを抜き取った彼女。

全てのイレモノからタマシイを抜き取りたかった彼女。

無数の死骸が散らかったテーブル。



一年前の今日。

僕たちが残した落花生のカラ。

ちょうどあの日と同じように、

少しぬるくなったビールの隣に

オーダーしたまま口をつけなかった

赤くて黄色いお酒を添えてその日は店を後にした。


























誰も彼も死ぬべきじゃないんだ。



死ぬべきじゃない・・・















呪詛のように繰り返しつぶやきながら。

城門のような重い扉を一人で押し開けて。



















あとがきにかえて














100%フィクションです。














この長文を最後まで読んでいただけたのなら、本当に嬉しく思います。

ありがとう。

ネット上、個人で書いた小説を公表しているHPって沢山ありますよね。

僕は好んでそんなHPに遊びに行きます。

ステキな文章を綴る方って、世の中にたくさんいらっしゃいますよね。

その方々の掲示板に書き込まれてる感想を読んでいて、

一番うらやましいなぁって思う言葉。










「○○さんのお話を読んで。感じました。濡れました。」









moon piece。

僕、moon4since1999という人間が、

拙い文章を綴りながらこのHPを作っております。

自分のページが、テキスト系と呼ばれるジャンルには

まだまだ足元にも及ばないってコトは気づいております。

だからこそこんな文章で、

誰かにナニかを感じて欲しいなんておこがましい事は思っておりません。

書いた本人。

うん。

せめて自分1人でいいから、

感じるような、勃ってしまうような、そして悲しい気持ちになるような、

そんなお話を書いてみたいと思いこの話を書きました。

マスターベーション?

そうかもしれません。

でも、このキーワードは自分自身への挑戦状のつもりで書きました。







エロ小説?

そう思われても仕方ない内容かもしれませんね。

本人はとっても真剣に書きました。

エロでなく、必要な描写だと思って。

他人様にお見せ出来る文章じゃないってコトは、

書いてるうちにイヤと言うほど実感することができました。

僕の指先から生み出される言葉は、あまりにも拙く、陳腐で、

そしてその事が歯がゆくて仕方なかった。

でもね、不思議と辛いとは思わなかった。






書くことが楽しくて仕方ないのです。






だからこそ、この先もずっと書いていくつもり。

文章を書くのが好きだから。

書き続ける事が、きっと、

上手な文章を書けるようになる一番の近道だと思ってるから。

上手な文章がどんなモノなのかなんてて分からないけど、

何年か先。

100人のうち1人でいい。

僕の文章を読んで「感じました」って言ってもらえるような

そんな文章が綴れるような書き手に、僕はなりたい。

なりたい。

なっていたい。

なれたらいいなぁ。



もしなれたら、

その時は胸をはって言おう。

「テキスト系のHPってのをやっています」って。








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