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半分の月






ナルくんです。

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夕方だらだら残業してたら、久しぶりに「なつき」から電話があった。

なつき・・・9月15日付 today's diary参照。

彼女の日常語。関西特有のイントネーションが電話口から聞こえる。

「あんたなぁ、今日暇なん?今日なぁ、パチンコで勝ったやんかぁ。

 焼き肉奢ったるさかい出てきぃーやぁ。 ほな、7時にスタバの前なぁ。」

おいらの都合を一言も聞かない電話。

いつもの電話。

相変わらずだなぁ。

やれやれと思いながら、上司の動向をキョロキョロ。

うーん・・・大丈夫かなぁ・・・

よっしゃ。今だぁ。

ダッシュ。







おなか一杯焼き肉食べて来ました。

その後、なんとなく、なつきと初めて出会ったショットバーに行って、

おいらは、大好きなジム・ビームをぐびぐび。

なつきは、マティーニをジュースみたいに飲んでた。

いいかげん酔っぱらってきて、

「もう帰ろうぜー。」

「いややん。まだ飲む。」

「俺、帰るぞ。明日も仕事だし。」

「ほかぁ。なら私も帰るわ。送っていきーよ。」

「えー。俺、そこでタクシー拾って帰るよぉ。」

「ええやん。うちすぐそこやん。送りー。」

「はいはい。」







なつきのマンション。繁華街の中にそびえ立つマンション。

都内じゃないけど・・・

熊本だけど・・・

ここの家賃、いったいいくらすんだぁ・・・って酔ったアタマで考える。

「じゃあなぁ。またなー。今日ご馳走さまねぇ。」

「ちょっと座って、話せへん?」

「俺、眠いんだけど・・・。」

「ええやん。ちょっとやけん。」

「うん。」







マンションの前のゴミ置き場の前の低い塀に座って

二人でタバコ吸った。

風向きによって、生ゴミの匂いがしてた。

「私なぁ、来週帰るねん。」

「そうなんだぁ。里帰り?」

「そうなんだぁじゃなくって、向こうで就職が決まったんや。

 来月から、○○の○○デパート内のティファニーで働くんやん。

 ずっと前からなぁ、ティファニーで働くのが夢やったんやー。」

・・・そんな上手い話あんのかよぉ?

 また騙されてるんじゃなねーのかよぉ?って思いながら。

「へぇー。すごいじゃん。」

「やから、今日でお別れやねん。あんなぁ、バイクに乗せてって言ってたやん。

 あれ、乗れへんかったなぁ。」

「いいんじゃねぇ。30男がイマサラ、バイク乗ってる方がねぇ・・・。

 バイク乗ってる、若い彼氏探したらいいじゃん。」

そんな話をして別れた。







別れ際、ただなんとなくキスした。

彼女と初めてのキス。

ゴミ置き場の前のキス。

ティファニーで働くことを夢見る風俗嬢と、

広告代理店で働くことを夢見て、そしてその気持ちを殺したまま、

公務員もどきの仕事を今も続けてる三十路前の男。

そんな二人がキスする場所としては最適な所だな・・・なんて思った。

バイバーイ。元気でなぁ。

大きく手を振って帰った。

振り向いちゃダメ。

振り向いちゃ負けだ・・・

心の中で何度も何度も念じながら。

見上げた空には、半分の月。

半分欠けて、それでも光る。





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