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花火 2002



ナルくんです。
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毎年、8月の初旬にあった立川市の昭和記念公園の花火が好きでした。

うちの近所である花火大会の中では一番大きい花火大会。

学生だった僕。OLだった彼女。

立川駅は混んでるから国分寺あたりの駅まで彼女をバイクでお迎え。

「今日バイクで行くって言っただろー。

 そんなスカートで乗れるのかよー。」

「なんとかなるよー。」

なーんて会話をしながら、バイクによっこらしょ。ぶーーーん。




路駐出来そうな場所にバイクを停めて、小さなシートだけ持って、

花火がよく見える場所まで手をつないで歩いて行く。

「今日忙しかったの?」

「えっ?俺?

 さっき起きたよ。」

「まーた1日中寝てたのぉ?」

「うん。

 だって、昨日寝たの明け方だったし。」

「遊びすぎだって!」

「いやぁ、昨日はね、梅ちゃんが元気でさぁ。

 あっ、うん、ゆうこもしょうちゃんも一緒。

 一緒になって飲んでたら朝になってた。

 梅ちゃんあのまま仕事行ったんだぜ。すごくない?」

「もうー、あなたは一日中遊んでいればいいかもしれないけど、

 みんな仕事なんだよー。いいかげんにしないと。」


「わかったよぉ。」





土手に小さな小さなシートを一枚敷いて

二人でくっついて腰掛ける。

「雨止んでよかったね。」

「でも地面湿っぽいね。」

「俺、なんか買ってくるよ。何がいい?」

「なんでもいいよ。好きなモノ買ってきたら。」

「分かったぁ。」

「買いすぎないでよ。いつも食べきれないくらい買ってくるんだから。」

「分かったよ。」





鼻歌交じりで、てくてく。

「買ってきたよ。飲み物、お茶で良かった?

 で、これが俺のビールっと。」

「ビール???

 オートバイで帰るんでしょ?」


「平気だって。これくらい。」

「ダメじゃん。」

「大丈夫だってぇ。あとね、たこ焼きでしょ。ジャガバターでしょ。

 アメリカンドックでしょ。こんなんで足りるかな?

 焼き鳥買いたかったけど、すごい行列だったっし、持ちきれないかなぁって思って・・・」

「買いすぎだって。食べれんの?」

「平気だって。」

「さぁーて、かんぱーい。」



あっ、花火。



「おう。

 すげー。いったい何発一気にあがってだぁ?」

「あっ、あの端っこの方、へんてこりんなくるくる回る小さな花火

 お前に似てない?」

「似てないよー。」

「それなら、あの緑のへんなやつmoonにそっくりじゃん。」


「えー、俺あんなにへんてこりんじゃないよーだ。」

「あのくるくる花火、絶対、お前な。」

「決めたもん。あの花火の名前。○○って」

「これからあのへんてこりん花火は○○って呼ぼうっと♪」

「おっ、また○○があがった。」




「終わっちゃったね。」

「うん、帰ろっか。」

「どうする?」

「明日仕事だしなぁ・・・今日は家に帰るね。」

「えー、帰んのぉ?いいじゃん、うち来て泊まっていけばぁ。」

「仕事ある日に泊まると親うるさいしぃ・・・」

「いいって、いいって。朝、駅までは送ってってやるから。」

「何がいいの?問題解決してないじゃん。」

「まぁいいじゃん。そんなわけで行き先はおいらの家で決定。」

ぶーん。




「すっげー汗かいたぁ。」

「シャワー浴びよっと。」

「俺から入るよぉ。」

「えー、私から入るよぉ。」

「じゃあ、一緒に入ればいいじゃん。」

「狭いからやだぁー。」

「なら、じゃんけんね。」

じゃんけん、ぽん。

「あっ、ちくしょう。」

「moonってじゃんけんの時、絶対チョキなんだもん(笑)」

「ふーんだ。いいよーだ。先に入って。」




がらがらがら

「何?なんで入ってくんのよぉー。」

「いいじゃん。一人で待ってるのつまんないしー。」

じゃーーー。




冷蔵庫からビール取ってくれる?

「また飲むのぉ?」

「いいじゃん。飲みたいんだから。お前飲まないの?」

「いらなーい。なんでそんなに飲むのかなぁ。」

「だって、美味いし。」

「えーー、美味しい?」

「美味いって。お前はまだ子どもだから分かんねぇーんだよ。」

「ほらだって、お前って、さっきのくるくる花火だし。」

「違うもーん。」

「えっ?ドライヤー?ちょっと待ってね。ほらアタマ出してみー。」

がーーーー。

「お前、髪の毛長すぎるって。乾かす方の身にもなれよぉ。

 めんどくさいから美容院行って、もうちょっと切ったらぁ。」




「寝る?」

「そっか、明日も仕事だしね。」

「クーラー、タイマーでいいよね。

 あっ、そのシャツ?それ着ていいよ。

「おやすみ。」

「来年もまた一緒に花火行こうな。」








あーん。







後ろ向きに生きても仕方ないと思いつつ・・・

毎年、毎年、夜空にあがる花火は

刹那ではあるけど、その姿を変えることなく、

僕の目の前で去年と同じ形で綺麗に夜空に花の軌跡を描く。

花火だけは変わらないのに・・・

僕の周りの景色は随分変わってしまったな。

後ろ向きに生きても仕方ないと思いつつ・・・




特殊な環境下では可能らしいけど、

時間を逆行することはできないよね。

普通の人々は一方通行だよね。

滅びることなしに時間を過ごすことはできないけど、

時間の恩恵も確かに受けてはいるよね。


でもね、


後ろを向いても、

「おーい、おーい」って叫んでみても

「戻ってきてよー」って泣いてすがったとしても、

戻ってこないものは沢山あって、

年に一度。

去年と同じ夜空を見上げて、

去年と同じ花火を見上げて思う。





時間の恩恵なんていらない。

お願いだから、あの頃に戻してくださいと。






花火。

幼少の頃、母と幼い弟と小学校に上がる前の僕。

3人で行った花火大会。

途中母が、かき氷を買ってきてあげると席を立つ。

人混みの中にぽつんととり残される僕と弟。

かき氷なんて食べたくないのに。

おかーさんと一緒に花火見ていられたらそれだけで幸せだったのに。

言えなかった。

「いかないで」って。

もしかしたら、母が席を立って、5分も経過していなかったのかもしれない。

けどね、知らない沢山の人の中にぽつんと取り残された僕。

お兄ちゃんなんだからしっかりしなきゃって思いつつも、

母はちっとも帰ってくる気配がない。

時間がたてばたつほど不安になる。

もしかしたら捨てられちゃったんだろうか・・・

時間がたてばたつほど不安になる

周りにいる人達がみんな悪い人で、

僕と弟をどこか怖い所に連れて行くのでは・・・と。

気がついたら、泣いてた。

心細くて。




しばらくしたら母は帰ってきたけど、

今度は安堵で涙が止まらなかった。

「もういかないでね」って泣いてた。

あの頃なら言えた。

大事なモノがきちんと見えてたから。

自分の気持ちをきちんと表現できてたから。

素直に伝えることが出来たから。

変わったもの。

周りの景色。状況。

そんなものだけでなく、一番変化を遂げたのは

僕の心の中なのかもしれない。

あの素直な気持ちを変わらずもてていたら・・・

世のしがらみなんてすべて無視出来る強さがあったなら・・・

あの時、変な意地なんてはらずに、

ごめんね。この先もずっと一緒にいようねって言えてたら・・・




去年の花火、綺麗でしたよね。

今年の花火、綺麗だったよね。

来年の花火、きっと綺麗だろうね。

花火だけは何も変わらないのにね。

去年の花火、誰と見てました?

今年の花火、誰と見ました?

来年の花火、誰と見ます?




大事なもの、きちんと見つけておかなきゃね。

きちんと捕まえておかなきゃね。

きちんと表現しなきゃね。

きちんと手を繋いでおかなきゃね。






変わらぬ花火を変わらぬ幸せな気持ちのまま見上げたいならね。


花火のたびに後ろ向きになる僕みたくになりたくなければね。





2002 花火を終えて。





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